ぶつぶつ日記

心臓の音について


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誕生日は一人旅でした。
長年の憧れだった豊島の「心臓音のアーカイブ」に、ついに行ってきました。


月曜の朝一番に豊島の唐櫃港に到着。
15分ほど歩くと海辺にひっそりと、その小屋はありました。
開館までの時間、浜辺で波の音を聞き、波の模様を眺めていました。
緊張。待っているうちに、緊張で小屋の方を振り返れなくなってきます。



現実ではないような気もしてくる。

私は奈良盆地に生まれ育ったので、そもそも海に慣れていません。
宇野港から豊島への船で、まず衝撃を受けました。
神戸から小豆島に渡るときには感じなかったもの。
盆地の周りに山々があるように、船を島々がぐるりと囲んでいる感覚。
まるで田んぼのあぜ道を走るように、船が島と島を行き交う。
本物じゃないみたいだった。遊園地か何かのパビリオンのようだった。
けれど現実。
この環境で生まれ育ったら、私はどんな人間になっていたかな。
盆地で生まれ育つのとは、絶対違ったと思う。





さて、ご存知じゃない方のために。
心臓音のアーカイブ」は、クリスチャン・ボルタンスキーによる、
心臓音を収集するプロジェクトです。
世界中の人々の心臓音を聴く部屋、自分の心臓音を録音する部屋、
無作為に選ばれるどこかの誰かの心臓音を使ったインスタレーションの部屋。
その3つの部屋で構成されています。


心臓音は、体の奥の音。体の奥の本当の声。
真っ暗なインスタレーションの部屋で、録音したばかりの自分の心臓音を聞いた。
大音量で。
自分で自分のこと騙している。
大丈夫って言い聞かせて、がんばって良い姿勢をしてる。
自分の本当の声、気持ち、言いたいこと、もっとちゃんと聞かなきゃ。
私のこと、もっと大切にしなくちゃならない。



心臓音は、本当にみんな違う。
それぞれの速さで、それぞれの大きさ。
それぞれ体の奥では、私たちはそれぞれの音楽を奏でているのだ。
波長があう、あわない、なんてよく言うけど。
道理で。よく知る人にでも寄り添うのは大変なわけだ。なんてこと!
だけど、知らない国の知らない誰かの心臓音が、
部屋から出ようとする私を、背後から呼び止める!
もう少し話をしよう。そんなふうに言われている気がしたり。






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豊島は文字通り、豊かさを感じる場所でした。
心臓音のアーカイブから豊島美術館まで歩く途中、山の中から牛の鳴き声がしていた。
美術館につくと、今度は立派な棚田が広がっていて、ヤギの声がする。
見下ろすと、遠くにいるヤギが私を見あげて鳴いていた。
大きな鳥がゆっくり低空飛行。家という家に果樹があり、畑があり、楽園のよう。
去年、豊島で開かれたあるパーティのBGMを、こっそり選曲させてもらったのだけど、
今回初めて訪ねてみて、実によく選ばれたものだと、フィット具合に自分で驚いた。
与えられ、自分も与え、命のサイクルの中に自分も含まれていることを忘れない。
食にまつわる部分で行ってみたいところがあって、
次は、じっくりと滞在したい。

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この旅に持ってきた本がある。
料理家・井口和泉さんの
料理家ハンターガール奮戦記 ジビエの美味しさを知らないあなたへ
動物がお肉になるまでを、知りたい、とか。
イノシシや鹿が畑を荒らして困るなら、捕まえて食べちゃダメなのかなとか。
漠然とした疑問、興味を去年くらいから持ち始めてまして。
だけど、私のような素人が足を簡単に踏み入れてはいけないとも思っています。
失礼だとも思うし、また知識がなさ過ぎてついていけないとも思うし、
触れてはいけない精霊のようなものもいるようにも思うし、、、、。



井口さんの本は、井口さんが迷いながらも体を動かすことで見つけられた答えが、
とても分かりやすく丁寧に綴られていて、優しさに溢れた本でした。
私は私のペースで歩いたらいいのかな。
私の答えを私が見つけたらいい。ゆっくり。
誰と比べることもない。劣等感も感じなくていい。




遠く離れた島で、自分会議をしていたら、色んな人からバースデーメールが届きました。
まだ関係が始まったばかりの方からも届いたりして、
携帯が鳴るたびに驚きと感謝で目頭が熱くなりました。ありがとうございます。
たっぷり泣いた1泊2日の旅から帰宅したら、
前倒しで802から頂いたお花が、開いたり枯れたりしていました。
最近気付いたのですが、枯れてゆく過程も良い。
こんなふうに歳をとりたい。
自分を大切にしよう。きっとそれが全ての始まりだから。
まだまだ出来る。もっと出来る。
私が止まっても誰も困らない。ただ私が終わるだけ。
ただただ、みなさんに支えられ、与えられて生きることが出来ている。
食いしばりと歯ぎしりで歯が砕けてなくなるまで頑張ろう。

今年もよろしくおねがいします。


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